チェレコフ光について、バーで…理系で詩的な小説『スティル・ライフ』で内的世界へ

エンタメ/
  1. ホーム
  2. エンタメ
  3. チェレコフ光について、バーで…理系で詩的な小説『スティル・ライフ』で内的世界へ

本記事は広告を掲載しています

サムネイル:Amazon

ハルキストまではいかずとも村上春樹が大好きな筆者!

「理系の村上春樹」と評されている池澤夏樹の存在が気になったので、『スティル・ライフ』を読んでみました。

ebookjapanで読む

あらすじと受賞歴

ある日ぼくの前に佐々井が現われ、ぼくの世界を見る視線は変った。しなやかな感性と端正な成熟が生みだす青春小説。芥川賞受賞作

中央公論新社公式HP
ぼく
ぼく

主人公。染色工場でアルバイトする。名前は出てこない

佐々井
佐々井

’ぼく’と染色工場で出会う。その後退職するも、’ぼく’とは酒を交わす仲

2人の酒場で語る内容は日常とはかけ離れた天文学や哲学。知的な会話がオシャレ!

実は会社の公金を横領した過去を持つ佐々井

そんな佐々井が’ぼく’に金銭にまつわるある計画を持ちかけ、物語が進んでいきます。

第98回『芥川賞』、第13回『中央公論新人賞』を同時に受賞!
作者の池澤夏樹は大学時代に物理学を専攻!

読後の感想

冒頭の一節がいつまでも心に残る

一行目からその詩的な文体に吸い寄せられました。

この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。


世界と君は、二本の木が並んでたつように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。


きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っているそれを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。

でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。

大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。

たとえば、星を見るとかして。

二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過すのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。

水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。

星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。

星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけど。

『スティル・ライフ』

そこから佐々井がバーでウィスキーグラスの透明な水をかざし、チェレンコフ光について語ります。

裕福な伯父夫婦の家に住み、染色工場でアルバイト生活をする主人公。

1987年という出版された時代もあり、その響きは今と少し違って聞こえます。

社会において、何をすべきかまだ見つけることができず、アルバイトを転々としてきたいわゆるフリーターだが、そんな型にはまった言葉を使うのはこの作品には不適切です。

佐々井も同じようにアルバイト生活をする身ですが、主人公とは違い目的を探しているわけではなく、すでに人生の目的を見つけてしまったような、世界を全体で見つめているような浮世離れした男です。

電子書籍は国内最大級のebookjapanで!【PR】

・取り扱い冊数は80万冊を超える!
・常時2800冊を超える無料のマンガが楽しめる♪
セール、全巻読み放題などの独自のキャンペーンあり!

草食動物のように潜む

佐々井の要求によって、株の運用を手伝うことになることで物語に一山できるのですが、その点は佐々井がゆるりと世界を生きれる根拠づけの役割を持つだけで、特には重要ではないように思えます。

佐々井のように、世界を自分と切り離し、ひっそりと社会で草食動物のように息づく男と対照的に、主人公は染色工場の仕事に自らの存在を委ねようと傾いています。

主人公が佐々井のような世界から解脱した存在に憧れているかは明記されていません。

ただ、佐々井という存在を認識し、感じているだけのように思えます。

社会人として、世間で生きるということは、どこかに所属し身を置くことで、世界に関わっていくことで自分の存在を固める役割を持ちます。

そうでなければ、自分がどこにあるかわからず、足下から崩れていってしまうような感覚を覚えてしまうでしょう

ですが佐々井は、世界と自分を切り離し、一定の距離の中で、心と星を直結して、静かに息をしています。

そんな佐々井の身のこなしは社会にもまれ身を削っている読者に短絡的な羨ましさを覚えさせます。

しかし、本当に羨ましいのはその静物のような心の有り様なのかもしれません。

いつまでもなくしてはいけない、遠い昔の人間の息づき。静けさ。穏やかさ

上記に引用した本文は、何度でも何度でも読み返して、いつでも引き出せるように心にしまっておきたい煌めく言葉たちです。

すぐにでも銀河で浮遊しているような気持ちになれます。

心が浄化されるどこまでも静かな小説です。

オーディオブックはaudiobook.jp!【PR】

耳で聴きながら楽々インテリジェンス♪

プロのナレーターや声優が書籍を読み上げてくれる!
オフラインでも再生できる!
移動中、作業中いつでもどこでも