『動物のお医者さん』はなぜ今読んでも面白いのか?恋愛のない少女漫画の魅力を解明!

PRエンタメ/懐かし漫画/マンガ
  1. ホーム
  2. エンタメ
  3. 『動物のお医者さん』はなぜ今読んでも面白いのか?恋愛のない少女漫画の魅力を解明!

本記事は広告を掲載しています

少女漫画なのに、色恋沙汰は皆無(むしろ犬恋沙汰)。ハスキー犬と「H大学獣医学部」の愉快な仲間たちが穏やかにも、賑やかに過ごす日々を描く『動物のお医者さん』

白泉社『花とゆめ』にて6年間にわたって連載され、シベリアン・ハスキーブームなど社会現象を巻き起こした大ヒット作品です

筆者は最近になって本作に触れたのですが、気づけば文庫本全8巻を1日で読了。30年以上の前の作品ですが、絵柄、ユーモアのセンスともに違和感もなく、今になってどハマりしてしまいました

サニー柴本
サニー柴本

美麗なイラストとシュールな笑いがたまらない!
時代を超えた名作のその魅力をひも解きます

  • 著者…佐々木倫子
  • 出版社…白泉社『花とゆめ』
  • 連載…1988年〜1993年
  • 花とゆめコミックス全12巻(白泉社文庫全8巻、愛蔵版全6巻)

作者の佐々木倫子氏は、北海道旭川市出身『花とゆめ夏の増刊号』にてデビュー。作中に必然性もなく「フラフラと動物がでてきた」ことから、編集部から「獣医さんが主人公であれば無理なく動物を出せるでしょう」と諭され、『動物のお医者さん』を連載開始

そのシュールなギャグセンスで青年誌の読者など熱心な漫画ファンから評価を得て、普段漫画を読まない層が単行本を買いに走り、最終的に全12巻で少女漫画としては異例の累計2,160万部もの単行本を売り上げました。

作中に登場するシベリアン・ハスキーの「チョビ」の愛らしくも間抜けたキャラクターが大人気となり、日本中が空前のハスキー犬ブームに。

また作中の舞台となった北海道大学獣医学部の志望者が急増し、それまでよりも入試倍率が跳ね上がるという教育界にまで影響を及ぼす社会現象になりました

ユニークな登場人物

主人公は西根公輝・愛称ハムテルというH大学獣医学部生で、初登場時は親友の二階堂とともに受験生。

地下鉄駅への近道の途中のH大学獣医学部解剖室横を施術に遭遇しないように急いで通り抜けようとしたところ、ハスキー犬の子犬チョビと漆原教授に遭遇。

子犬が実験に使われると勘ぐったハムテルが進言しようとすると、「キミは将来、獣医になる!」と運命めいた予言をされ、飼い主を押しつけられます。

ハムテルの両親は音楽家で海外に居住し、祖母と大きなお屋敷で二人暮らし。おばあさんが飼っている三毛猫・ミケとハムテルが飼っているニワトリ・ヒヨちゃんにチョビが加わる形となります。

北海道大学という国立難関大を模した受験を控え、医学部が視野に入る準エリート層。放任主義ともいえる家庭環境、おばあちゃん子の一人っ子という背景があるからか、冷静沈着で穏やか、「じいさんぽい落ち着き」と評される主人公の人柄が、作品の大きな特色です。

4話にて、たったの3行で二階堂とともにH大に入学したことが明かされ、花のキャンパスライフが舞台となります。難関大学合格というドラマチックなイベントも大事にせず、淡々と物語が進んでいく作品のクールさがたまりません。

親友の二階堂は打って変わって人なつっこい人柄で、対照的な二人は大親友。自らの道を切り開くハムテルの後ろについていきがちな主体性の乏しさが玉に瑕ですが、その人間らしさが魅力です

動物にもキャラクター性があり、主犬公・チョビは強面な見た目とは裏腹な温厚な性格。食欲や運動欲は犬らしく盛んで、ハムテルに甘える姿は愛らしさ満点です

動物と日々をともにする西根家でのドタバタ・一癖も二癖もある仲間に囲まれた獣医学部でのキャンパスライフの二軸で物語が展開されます。

ハムテルが所属する獣医学部病院学講座を担当する漆原教授は、アフリカに傾倒する破天荒なH大学附属動物病院の院長。猛々しくも愛情を持ってゼミ率います。

一方、獣医学部公衆衛生学講座に所属する先輩の菱沼さんはバブル期の残り香を感じさせるファッションをセンスよく着こなす美女ながら、細菌学一筋で細菌マニアの変わり者。

オーバードクターで就活に悩み、お見合いを考えるエピソードなどで、リアルな学生事情に触れることもできます。

作品の温度感

少女漫画ながら恋愛の要素が皆無といっていいほどで、あくまで動物と人間、友人、家族間の関係が描かれているのが本作の大きな特徴のひとつ。

H大学獣医学部・西根家のインテリジェンスなバックグラウンドもあるのか、温厚な登場人物と動物たちが繰り広げるドタバタな日常生活の中でも、作品全体にはどこか静かな空気が流れています。

高校時代から四六時中、行動をともにするハムテルと二階堂が心を寄せ合う様子、年の離れた祖母とハムテルの小気味のいい関係性、言葉が通じないはずなのに人間同士よりもコミュニケーションの本質を感じさせられるハムテルとチョビの絆。

登場人物(動物)の感情の機敏が感じられ、文学的な余白があります。

そんな空気感、美麗な作画の中、シュールなギャグやとほほな顛末でくすりと笑わせてくれるのも大きな魅力。

ハムテルというキャラクターが主人公だからか、禅問答のような、ある種の諦めのようなものが作品の根底にあるのではないのかとも感じさせられます。

一話完結でコンパクトに読めるうえ、大学や家畜病院への綿密な取材に裏付けられた描写により、動物や研究について学ぶことができるのも魅力です。

30年以上前の作品でありながら、絵柄のみずみずしさも、間の効いたユーモアのセンスも色褪せることのない本作。

その魅力の正体は、ハスキー犬の愛らしさやシュールな笑いの奥に、人や動物の感情の機微を丁寧に描き出すまなざしにあるのかもしれません。

派手な事件も劇的な恋愛も起きない、けれど確かに心に残る日常。肩肘をはらず、何度でも読み返してその世界に戻りたくなる、少女漫画のマスターピースです。

\『動物のお医者さん』を一気読みするなら!/